************************************

 よりハッピーになる微笑み空間をつくりましょう♪20150402

〜・〜生成プロセス:地域の構造保存変換としての建築 川越の家〜・〜

************************************

 明るい空に満開の桜が映える、お花見日和の頃です。(*^o^*)

花粉症対策も欠かせませんが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。

ご無沙汰しております。

 さて、前回は、クリストファー・アレグザンダー著“The Nature of Order Book Two”から、
15の幾何学的性質自体が、潜在的にでも既に在る構造を保ちながら新しいものへと変換を担い、
過去から未来を引っ張るように、保存と創造を同時に行う具体的な例を見ながら、
「生きているプロセスは、一歩一歩、既存の構造を保存しながらの変換を通して、
生きている構造を生成する、何らかの適合(適応)プロセスである」
ことを、理解して参りました。

 今回は、既にある地域の構造を保持し、より強化し新しく創造する、
生成された構造の生きているプロセスの実際例、「川越の家」
をご紹介したいと思います。
地域構造を修復し、より強化することで、建築の生命もより生き生きとすることが伝わり、
建設中でも、ダイナミックに関係者のみからだけではなく、
「お母さん、あの家に住みた〜ィ」と地域の人々から愛される建物として生まれるプロセスです。
既存の構造保存変換が、生成された構造を導く生きているプロセスの鍵となるのです。
また、生きているプロセス自体が、
まだぼんやりとしているような既存の構造を保存し新しい構造を導き、
生成された構造となると解るでしょう。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


1.課題とプロジェクトの狙い

生成された構造は、伝統的建物や、庭園や、美術工芸品や、村落に、自然そのものと同様に見ることが出来る。
それは、実際に生きている人々によって、生きることそのものであるプロセスの中で、造られてきているからだと、
経験から感じ取り得る。

一方で、組み立てられた構造は、特に現代においては、何らかの枠組み、
それは、誰かの経済的効率性や利潤追求、政治力のためや、ビジネス至上主義や、民を管理、支配するための、
それを守る官僚主義や形式主義や、なんらかの強迫観念などから発して、枠に嵌められることで、無気力になるか、
がんじがらめの状態と本当の自分との分裂が起き、そこで暮らす人達の本当の生活の真実、生きているということから、
かけ離れてしまっている。故に、組み立てられた構造は、絶え間なくストレスをもたらし、
人々を病的にしたり、捌け口を必要としたり、緊張とリラックスの切換の自由を奪い、躁鬱病や、
回復しない疲労や未病状態に陥らせるが、生成された構造
は、人々や地域を癒すことができるので、
人々や地域に、より生命力を与えて自然と調和する。
建築を切掛けとして都市環境や住環境を修復し、心身の健やかさを取り戻し、
地域社会に貢献することを狙いとしている。

 人間の生きる環境、それ自体、生きているので、
一つの建物は、地域が生きることに貢献する一部分である。
それは、そこに暮らす家族の心の世界と外の世界、地域環境に貢献することが出来る。
生成されるプロセスにおいて、全周囲と関係を築いて全てが生きているポジティブスペース
2へと、千のステップは続く。
生成されるプロセスは、ある時は素早く、あるいは緩慢に流れる川のようで、既にあるぼんやりした、
或いは、はっきりしたセンターと全体性を凝視しながら、あらゆる道具を用いて、チェックし、確かめ、
意思疎通を図り、そして建設していく。
下記の記述は、生きているプロセスにおける実際の計画から建設までの流れ、
その間のイベントのシークエンスである。

2.クライアントとの土地探しと「パタン・ランゲージ」作成

 家族にとって最適な売地を見つける為に、クライアントのK氏は若き都市計画家で、
情報収集や洞察に優れて、抜群の交渉力を発揮した。

3
つの有力候補地を2回の機会に分けて現地も確かめ、K夫妻により銀行との交渉も進み、企画は詰められた。
どの土地が良いかと問われ、隣地が駐車場であることを気にしていた
K氏の判断を促すこととなった。
駐車場との間のフェンス沿いに多くの植栽をすることを勧めた。
それは、最も高値の土地で建物予算を減らす選択であったが、周辺で計画道路が工事中で、
当住区周囲で通過交通が無くなるであろうという見通しのみではなく、
格子状の街路に組み込まれた戸建て住宅群地区と、
陽の方向に忠実な
4階建ての公営住宅群地区の間の境界地帯にあるので、その立地は大変興味深く、
全体性を導き地域全体に貢献できる機会となる可能性を秘めていた。
上記の二つの性格、二つの形状の間に位置する境界で、
それらからの形態的圧力を受けて、
三角形に沿うスパイラルに近い流れが「
THE VOID、空」を生み出し、
自然な変化率を持つ「
GRADIENTS、段階的変容」や「ROUGHNESS、粗っぽさ」と、
いくつかの幾何学的性質を持つ五辺の不定形の形状となった。

 一方、「LOCAL SYMMETRIES」が内的要求、内圧力から出現し、それは「K邸パタン・ランゲージ」であり、
他からの既成概念なしに素顔の夫妻から出て来たプロジェクト・ランゲージであるが、
K氏は、元々、「パタン・ランゲージ」などについても十分な知識があり、
プロジェクトの最初から最後まで、K夫人に説明することが出来て、企画から入居まで1年間集中し、
夫妻と共にこの生成プロセスは進められた。


3.敷地における実験と基本設計スケッチ

こうして敷地を確かめパタン・ランゲージの具現化を意識して描いた基本設計のスケッチだが、
敷地で配置実験により確かめられた。

 

4.全ての面から建物を把握しまとめ予算との調整を図る

建物予算配分は、その時点での社会経済状況の中で、
クライアント家族の夢や願いを叶えて実現できるか、
核心に迫るような最も重要な作業であるが故、
基本設計を超えて市場価格を反映できる見積もりのために構造伏図も含めた設計図書一式に加えて、
スタディ模型が、全てまとめて形状確認し展開し、
施主や元請施工者候補やメーカーとコミュニケーションする動的プロセスの中で、かなり重要である。

    

     

5.多くの設計図とスケッチ

まだはっきりとしないセンターや全体性を育てていく為に、内外のスケッチや設計図により、
全ての角度、アングルから地域と調和するように、
クライアントと元請施工者候補達とコミュニケーションをとり、
練るように進めていく。

この敷地は街区の南西寄りに位置するが、川越駅からのルートでもあり、
街区の北側では幹線道路に面していて、その幹線道路から入って家に到るルートから、
最初に当該建物が目に入るアングルである西北からのスケッチを描くことは、
まだ縮尺50分の1の模型であるが、建物の既存の構造を、
敷地の南側方向にある公営住宅群との調和をより強くするために、
この建物のセンターを強化する重要なチャンスとなった。

6.屋根形状とバルコニー

敷地で模型によりスタディをしたところ、西北の角度から見たところで違和感があり、
カスケード状の屋根は敷地の実際のサイズには適合しないので、
調整のため次のスケッチを見せながら、K夫妻に説明したのだった。
その調整は、初期の見積もりの予算超過という問題の解決の助けとなるとも考えられ、
バルコニー形状をスタディし、施主にバルコニー下は自転車置き場になる用途など確かめる中で、
クライアントのK氏から素晴らしい助けがあった。

 

彼は、バルコニーの可能性として3つの候補を図示して提示した。
スケッチアップで描かれたもの二つのケースは、組み立てられた構造の傾向を助けるものであった。
つまり、この敷地で、周囲からの力を受けて生まれてきた、センター、既存の構造を弱めてしまい、
より曖昧にするか、戸建て住宅群に近づき、公営住宅との調和する関係は諦めてしまうものであった。

最後の3つ目のプランにマーカーで提示されたものは、境界に位置するという既存の構造をより強化し、
生成された構造をより確かにするもので、地域の構造、全体性を強化するもので、
木構造の合理性とも一致し、実現すべきものであった。

7.構造設計技術について

 微妙に不定形の建物を設計するにあたって、
バランスよく、重心と剛心を可能な限り一致させるように偏心率をゼロに近づけて、
2階の床下地を剛床として扱うことが、この建物を成立させるのに決定的であった。
更に、屋根の構造は、5面という形状から頂上に細長い三角形の「空」を成して、大小2段で構成された。
大きな下段の屋根が主であるが、上の小さな屋根は、
既存の構造の力強さから建物や地域の結晶のような強いセンターであり、重要であった。


8.詳細と見積もり調整

増税の影響が出始めた市場動向を反映した最初の見積書は、元請施工者候補の二社に拠った。
一つは、設計に忠実な姿勢で明確であり、全ての項目を網羅していた。
他方は、早々に、本質について見抜き、仕口や継手など接合部についてが実現性に決定的なため、
それらを確実にする狙いもあり、プレカット業者とのやり取りが反映された施工図に進んで、
より実際的な施工性を考えたもので、増税前の社会経済状況の中での実現性についても考えられていた。
限られた期間内で集中してポイントを絞って進めるのが、最適な判断であった。

ポイントの一つは構造材の接合部で、その金物取付けも含めた施工性を考えて、
設計と見積の調整を進めるのは望むところであった。
構造材の調整は、設計者側、又はプレカットを含む施工者側のみで閉じて進めるのではなく、
協議して進めることで、全体に貢献することになるものだ。
こうして、増税前の駆け込み需要からの工費高騰の社会経済状況下にも関わらず、
その理由が、地域構造からであるが故、直角であるのは5角の内3角のみの不定形の建物が、
プレカットのシステムや、その担当者の理解と熱意に支えられて実現できた。

9.建築申請

川越市役所建築指導課へ事前相談や、協議や、交渉する機会は何回かあった。
建物の公的社会性から行政機関とのコミュニケーションは、
地域における建物という全体性のために調整し合成し、まとめる節目としても重要である。

生きているプロセスは、段々に出現してくる建物を確かめながら調整する何回かの機会を含んでいるが、
当プロジェクトは、主に二つの「軽微な変更」の試みがあった。
一つは、増税前の最高値となった基礎工事費の為に、
必要最小限に抑えたベタ基礎の立ち上り高さを10cm上げる試みであった。
基礎としてより良く、建物をより優良にするが、建物最高高さは変えないとしても軒高が10cm上がるので、
「軽微な変更」とは認められず実行できなかった。
もう一つは、成功例だが、小さな屋根にトップライトを設けるために、2階の一部を吹抜けとし天井高を上げて、
小屋裏収納面積を減少させるものであった。



10.詳細設計と見積もり調整

模型とスケッチと全ての詳細、実施設計図書は、その核を包み守りながら、その時点の社会経済状況下で、
予算内で実現することに集中するものであった。
そうして1階2階の間仕切り壁の削減に到ったが、それは見積調整だけではなく建物空間にも貢献するものであった。
1階のDKとレッスンコーナーの間仕切りと、2階の書斎コーナーと子供部屋の間仕切り壁が省かれた屋内空間形状は、
その敷地の立地と地域構造からの形態的力の流れから生まれる「スパイラル」、
それが導く「空」という幾何学的性質でセンターを強めた。
更に、各々の内部空間は、実際の家族生活のために狭くならずに、
より適当なものになり、結果としてコスト削減を助けることとなった。

 

11.クライアント夫妻自身と一体となるフィーリングと建物

クライアント夫妻と一体となる建物の感じを探求して、
個人としての性格の違いを合わせて一体として建物に反映する例として、多くの建物のカラー・スタディの例がある。

 

 
 

何かを選択し決める時にも確かめ続けながらバランスを取ることが肝心である。
地域環境の中にクライアント夫妻が立つように、地域の中で彼らの家が見えてくるのであり、
屋外や屋内に、両方の性の健全でバランスの取れた、人間が生きる環境の質を、創造し実現する為であった。


 

12.建設

比較的、短期間の集中した計画設計期間後に、
多くの原寸模型や即興スケッチが、敷地や作業場で確かめコミュニケーションの道具であった。
更に、一貫したプロジェクトの打合わせ記録と工事記録も、思考し伝達確認する重要なツールだ。

 
  

   

  

再び、建設段階だが、
建物頂上の小さな屋根に換気塔かサイドライトやトップライトの可能性を見た当初の建物模型に戻り、
建物のセンターについての話である。
建物形状が不定形で、小さな屋根も東西に細長い三角形の「空」を覆う不定形であるので、
当方も含めてクライアントや関連担当施工者が、防水性や風力を懸念し、無理せず保守的になっていたところであったが、
現場で実際、目の前に小さな屋根が掛かるのを見て、台風や冬将軍の風向きに最適な流線型に近い形状であったが、
更に小さな屋根の立ち上げを抑え、換気も大屋根と同じ軒天換気とすると、
現場のそこに建って屋根の天辺のヴォイドから地域を見渡して空を見ていた施主、
K氏が、その空との関係を断ちたくない心境となった。

  

 

そして、トップライトが実現できる方向に進むのであった。
当初、建物の天辺が「空」となるのに驚いていた
K氏であったが、
忍耐強くあきらめず申請上の難題も解いて説得力をもって、
各施工者も創造的熱意をもって、建物と地域の結晶のような強いセンター
の実現となったのである。



 

ローコストで換気と日照・採光とを分け、防水や風力の懸念を解消し、建設中の決断で間違いはなく、
構造材や接合補強金物が見える状態をカバーし、
子供部屋との間仕切りが出来た場合に備えて書斎コーナーと一体の空間にする意図もあり、
真夏の日の強烈さからも、日除けスクリーンを設けることとした。
構造材を通して空を見上げると、樹木の葉脈が拡大映写されたようで、見る者を小人にするような精神作用を感じた。
この天窓下の吹抜け空間は、クライアント家族のライフサイクルに合わせた多様な空間になるであろう。


 

建設への直接の参加は、アプローチの洗い出し左官仕上げの葉柄のカラーモルタルや、
天窓の日除けスクリーンの切り絵で、建物に宝石をまとわせるような部分で実現することが出来た。

次に、ここで、生成されるプロセスにおけるエピソードである。

   

 不定形の建物形状から鈍角の角を持つ、高さ関係もギリギリの階段とその周囲の納まりは、
難しい施工になると予見し、下がり天井と階段下の収納空間と一致する最適解を現場で確かめて得ようと計画した。
大工のY氏親子はかなり張り切って、木工事納まりの技術継承の為、
父親のY氏が、最も技術を要する階段下で素晴らしい納まりを残したが、
それを自ら際立たせようと壁材を切り分けた結果、奇妙な部分となった。
全体性を損なうのではなく、既存の構造をより強め全体性に貢献するものになるように、
施主側の声も集めて、Y氏の息子が全体性を理解し指示通りに納めて、
「スパイラル」を強め全体性に貢献できるものとなった。

 

 
 
 更に、道行く人や近隣から賞賛されながら、
他の熟練の職方達も、天窓や透かし模様の持ち送り等、建ち上がる建物と親和し相乗効果を生んだ。
図面は建築のために必要であるが、職人にとって枠組みとなるものであり、
図面に描けない3次元の創造的な生きる仕事、生きるプロセスを奪ってしまう面もある。
この素晴らしい技術と経験による野生の馬のような力強く美しい姿を、
全体性の中に置いて調整することさえ出来れば、生きた構造となり得るのである。

  

 一方で、K夫妻は、ユーザー参加にも理解があり、
「自分だけの空間」として、K氏は書斎コーナーの造作家具を、K夫人は工房の家具を、
契約図面で予算は保持し、造作家具図でベースは用意した上で、
各々検討し、その後、図面化し造作家具工事となった。
更に、現場で自ら、実際使い易く感じが良くなるように調整も行うこととなった。

 

13.結論: 全体性へと導く、生成された構造をつくる、

生きているプロセスにおける、形の合成

どのようにして構造や全体性を生成するかは、
実際に、全ての関係性が調和して解決されながら、形の合成によって成されるのである。
つまり、何か一つの解決が、他の問題を引き起こすことなく、
全ての解決となることで、その形の合成が「美」となる。

全ての関係性とは、ユーザーの内的構造であり、
地域の伝統的な町家や屋敷や蔵、鉄道駅や道路網、
格子状街路に嵌った戸建て住宅地区と太陽の向きに忠実な公営集合住宅の境界に位置するという地域構造、
大きな駐車場と小さな駐車場に面する敷地の構造、こうした街区の一角を成す実状、敷地の形状など。
そして不定形な形は、
コンピューター・ソフトによる構造解析とプレカットシステムが定着した木工事技術により支えられて実現され、
その壁や床下地などの構造や空間自体は、心地よい空気の流れを導き、音響からの必要性とも一致し、
壁の位置、窓の大きさは、構造や音響等性能の為のみではなく、
また深めの庇のある窓は、環境配慮の視点や経済性と一致し、
伝統的町屋や屋敷の景観とECHO共鳴」し響き合い、どこか懐かしい馴染みのある景色から、
人々が自ずと抱く時の流れの中に存在する感覚による精神的安定性から、
より生きる力を強めることに貢献する。これからも、植栽等、生きているプロセスは続く。

 




お疲れ様でした。

それでは、次回をお楽しみに〜♪(^o^)/