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〜生成された構造・生きているプロセス:住宅例その1〜
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梅雨の晴れ間に歩いていると、
色彩や香りの深さが感じられる季節です。
ご無沙汰しております。
さて、「生成された構造」と「組み立てらた構造」の違いを見て参りましたが、
今回は、クリストファー・アレグザンダー著の「THE NATURE OF ORDER BOOK
TWO」の付録として、紹介されている住宅例のプロセスを一望することで、
「生成される構造」のための生きているプロセスとは、具体的にどういうことなのか、
身近なところで、紫陽花が方々で咲くようにツユクサが一面に咲くように
具体的な実際のプロセスの影響を与え、
またはそれに近く実現化されるようにと、理解を深めて参りたいと思います。
1990年から1992年頃に、
私がバークレーで、「メリー・ローズ博物館」や、
名古屋市の「白鳥計画」や「千種台住区計画プロジェクト」に携わりながら、
このポピーレーンの住宅の、立面図や、基礎伏図や、天井漆喰レリーフの模型や、
リリーのレリーフ壁のモチーフの模型や、
開口部周囲などメインテラスの部分現寸模型を作製して、現場実験に参加したりと、
懐かしく思い出されますが、
実際、今日でも、日本で住宅のプロジェクトを進めるに当たって、
設計・監理に限り、各状況に応じますが、
この例は、ガイド的な存在となっています。
(左端は筆者。)
まずは、何回かに分けて、このプロジェクトを紹介している付記の和訳を、
ご紹介したいと思います。
原文でご覧になりたい方は、こちらから、
どうぞ、ご購入を〜↓
http://www.natureoforder.com/
さあ、始めましょう。
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1.新しい進め方、先進的なプロセス p.572〜
第2巻目を通して、私の掲げる論点は、建物を設計し建設する時に、
私達が建てるものが命を得る為の進め方についてですが、
一歩一歩、核心の領域、
センターの領域の展開を尊重する新しい進め方が、必要なのです。
展開する間、一つの確かな時点t に於いて、
その前の時点t-1に既にある全体性に応じて、
全体性に貢献するように、各新しいセンターが創られ形となるのです。
こうした全ては、
既存の構造を保存しながら転換する適用の繰り返しによって、
達成されるのです。
これは、完全なプロフェッショナルな建築的プロセスの確かな特徴を
置き去ってしまうにもかかわらず、
それは、多くの革新的な変化も創るのです。
具体的に解り易くするために、この付記は、
1991年から1992年の間にアップファン夫妻の為に
カリフォルニア州バークレーに建てられた戸建て住宅ですが、
詳細に亘ってそのプロセスの実例を完全に述べているものです。
このプロジェクトを通して、基本的なプロセスと15の変換が、
幾度となく繰り返されて、
全体性が展開するように、
各々新らたな詳細を得ていくのが見て取れるのです。
このプロセスは、この建物が建てられた当時である1990年代の
一般的に受け入れられている設計・建設プロセスとは
全く異なるものです。可能である展開のプロセスを創るために、
この家の為に、私は建築家であり施工者でした。
革新的な性質を持つにも拘らす、銀行が、そのプロセスに同意しました。
バークレー市の建築課への計画許可申請は、通常のものでした。(p.604-605)
設計図書の役割は、今日の通常のプロフェッショナルなプロセスからは、
随分と異なるものでした。
建設は、本当に展開のプロセスであることから、
私達は、それが完了するまで、
その家が、詳細については、どのように向かっていくか、
知ることが出来ませんでした。
いくらかの設計図面は、プロセスの間、建築許可申請の為に、
構造検討などの為に、描かれたにもかかわらず、
そのプロセスの参加者全員が、図面は単に、
完成した建物となるものの大まかな近似像であると、知っていました。
その住宅は、契約に従って、固められた予算へと注意深く建てられ、
予算に合いました。
私が同僚達と長年にわたって開発した新しい種類の建築工事契約の下で、
金額は管理されました。
この契約は、設計が前もって確りと固まっていなくとも、
展開し始める間に、保証される建設費を認めます。
こうして、クライアントは金銭的な不確かさを抱くことがないことから、
このようなオープン・エンドの、
建物の完成した姿が確定していないプロジェクトが、
展開する上での多くの段階が変更として見られる
典型的20世紀後期の建設工事契約の中で、
創造されたのでしょう。寧ろ、我々の契約に於いて、展開することは、
定められた予算の内で実行可能なプロセスで、
慎重なコストコントロールに裏付けられて、
これを可能にしたのです。これは、最初からの同意事項を成す部分でした。
私たちの仕事、工事は、職人や建築家や、
構造設計者や施工経験者や手元や徒弟を含む小さなグループにより、成されました。
全工程期間は、通常よりは長いものでした。
報酬は標準的なもので、
より長い期間を通して少しづつの出費で抑えていくものでした。
工事監理のコストは、固められた工事予算のパーセンテージで予め決められ、
おおよそ標準的な18%というものでした。
元請者である環境構造センター(CES)は、非営利組織であり、
私達の契約の性質上、どのような少額でも、その建物のために遣うのです。
CESは、設計や建設が進む間、(プロジェクト)資金を、
ダイナミックに配分したり再配分したりする責任を持っているのです。
私は、全ての生きているプロセスの一般的なモデルとして、
この例を提示しているのではありません。
他のプロセスが、他の新しいコンセプトが、
命を持たせていくのに、確かに必要でしょう。
道路建設や、土地管理、融資割り当て、
ゾーニングやプランニング、より大きな建設プロジェクトなどと、
生きているプロセスの特徴を含めるために、全て異種の修正が、必要となります。
しかしながら、このプロセスが持つ異なる度合は、
標準的な設計や建設と比較して、
生きているプロセスを達成するために、
全てのプロセスは思い切った変化が必要そうだという
概括的な提案を描いているのです。
2.敷地探し p.573
その住宅は、約2500平方フィート(約240u)で、2台の車用スペースを含む庭や、
テラスや、小さな庭、主寝室や娘の部屋や、ゲスト用の部屋を含むものでした。
私達は、敷地探しに2年間掛けました。私は、ご夫妻、クリスとステファニーが、
最初から、その場所に属すという
強いフィーリングを持てる場所を探すことを奨励しました。
的確な敷地を見つける為に、私も助けましたが、機会があるごとに、
可能性のある敷地までドライブして、それについて話し合いました。
いくつかの候補地を見て、不適当か、又は不可能かとなったものでした。
私が強調したいのは、基本的なプロセスを保ち続けるために、
機能的に、建設可能で他は同意していたとしても、
クリスとステファニーにとって、
「これは自分たちのもの」という
十分に深いフィーリングを生じさせることが出来ないと、
私達は、拒否し続けたのでした。
遂に、ある日、私は「来て、此処を見て」と電話があり、
私は、花に覆われた、小さな美し庭に訪れました。
それは、一つの宅地を分けて、他が買って建った後の残りの一方でした。
美しい場所でしたが、小さく、小さ過ぎるものでした。
しかしながら、それが的確なフィーリングを備えていたので、
難しい敷地であるにもかかわらず、
私達は、そこに美しい住宅を建てるよう努め始めました。
3.ラフな捩じった紙と模型用木材バルサを用いた敷地の最初の分析
私は、敷地から、最初に家のボリュームを分割し、配置をしました。
その場所の構造を保持するために必要なことは何か、道路に沿わせることなのか。
私の初めの反応は、この美しい庭を壊すのは、恥と感じたことでした。
私は、売り主に、私の思いについて話しました。
彼は、自分は年寄りとなって、庭の手入れも出来ないので、それは問題ないと言いました。
しかし、私はこの庭を壊すことは、
この近隣全体を壊すことになる危険があるかもしれないと思いました。
その庭は、静かな道路の窪むカーブを描いた土地に位置していました。
その近隣の鍵となる位置だったのです。
私は、既存の構造を保持するやり方で、
そこに一軒の住宅が配置できることに気が付きました。
それは、庭の美しさとそれをより養うことが出来るやり方を見つけて、
家を配置し、形づくる方法を見つけなくてはならないことであり、
そうして道路がそれに触れないことができるというものです。
この考えは明らかでした。明らかでなかったのは、この敷地に配置される、
この道路沿いの近隣を損なわない建物の要されるボリュームでした。
私は、ご夫妻に話しました。
「美しい敷地です。しかし、そこで私が良い仕事をできるかどうかは、
確かではないと思います。
余りにも小さいです。」
私達は、一家の住まいとして必要なボリュームとそこで建てるのに
可能なボリュームを見出していました。
そして、道路沿いや庭の質を保持することが可能ではないかもしれないのでした。
「土地を購入する前に、貴方方が望む質を備えた美しい住宅が、
そこで可能であるかどうか、検討して確かめましょう。」と。
その敷地をチェックするために、200分の1の縮尺の、小さな粘土の模型をつくり、
模型用の木材、バルサの小さな欠片を、この敷地形状を模した小さな模型の上に、
置いて試してみて、
その敷地自体から展開するであろう調和するボリュームは何か、見出しました。
要するに、道路沿いや庭の美しさを損なうことなく、
210u程度の建物をこの敷地にどのように配置することが出来るかという問題です。
私は、それは可能であると切り換えました。
私は、飛び出すことなく、スロープ内で、隠れるようにこじんまりとして、
土地の構造を保持して、それを配置することが出来ました。
庭のカーブは、在るがままに、
家とそのカーブは、庭と道路のカーブによって形づくられるセンターのシステムを、
建物の配置のカーブは、保持するものです。
しかしながら、それは、直ぐに、敷地を壊すことなく、
2台の車のスペースを備えることは
不可能であることが明らかとなりました。
これについて、私は一家に話しました。
彼らは、1台分のガレージで十分で、大丈夫だと答えました。
こうした困難を伴って、全ての住宅のボリュームは、
遂に、道路に向かっている(サラダ)ボールのような敷地中が、
より生きて、ポジティブスペースを残して、
それ自体の適切なセンターを備えて、
奇妙な形ですが、
リラックスして心地良いボリュームを見出すことが出来たのでした。
この効果的なモデルを用いた検討プロセスのために、
模型は粗末なものです。
ゴミのような紙の切れ端を捩じって丸めて塊とし、
バルサの欠片を用いています。
模型の粗さは、本意なのです。
敷地のどこに、どのくらいのボリュームを置いたら良いのか、
散々試すものだからです。
良いものを探すために、素早く扱えるものが適切です。
注意深く作られた模型は、模型の扱いに神経を使い、
流れるような頭と手の動きが同時となるような思考を滞らせ、
或いは模型もぐちゃぐちゃになります。
私達が必要とするのは、切り裂いたり、くっつけたり、
こうしたことが直ぐにできる可変性のある柔軟な模型です。
敷地の構造を保持するものか、
近隣の周囲の建物と敷地からなる全体性を拡張するものかどうか、
それが可能であるか、検討するものなのです。
4.敷地におけるボリュームと配置の原寸模型によるテスト
住宅の配置と特質から、ボリューム、規模が、小さな模型から与えられ、
次に、敷地自体に立って、そこを歩き回りながら得られるその感じから、
そのボリューム規模に、詳細にわたる寸法を得て行きました。
次は、展開の段階です。模型からのボリューム規模の全体を通した考えを、
一般的な感じと照らし合わせ、敷地に行って確かめて、
より詳細に進んでいきました。
私は、弟子の一人と共に、杭を打ちながら、敷地に立ちました。
この段階で、私達が出来る唯一のことは、デザインが出現する堅固な方向として、
当てにすることが出来ると感じるあらゆる事柄やゆるぎない点について、
明らかにすることでした。
敷地には、模型では解らないような、ずっと印象的な花壇がありました。
焦点として、決して幅広なものではないですが、
メイン・テラスという明らかな考えがありました。
私達は、このテラスが、
実現できそうで居心地よさそうな場所として信じられるように見えるところに、
杭を打っていくといったやり方で進めました。
この作業で、再び、私達は展開を見出しました。
そのテラスは、ラフな形で、私達の頭の中に、存在していました。
−大きさと配置を与えられた「事柄」としてー、
しかし、私達が、このあやふやな一般的なテラスという考えから、
展開された詳細にわたる形が何か、問うことから、
こうして、そのテラスに「ポジティブ・スペース」を創造しながら、
その形は、展開しより明らかになるのでした。
この結果として、ある種の優美な弓型が、
家が陽に向かって曲がりテラスがほんの少し大きくなるところで、
プランに出現したのでした。
更に展開していくと、
西端で敷地内に入っていくのが、最適という強い感じを持ち、
そこには、近隣の庭への階段近くにある階段がありました。
これは、駐車場の反対となるところでしたので、驚きに思えました。
(車から降りて家に向かうことを考えると、或いはその逆でも)
論理的ではないとさえ思えました。
道と家との間を登ったり下りたりと注意深く歩くことを考えて、
花を眺めながら、同じような小さな階段を登って、
西の端で敷地に入っていくことが、
ベストであると確かになって来ました。
右側に階段が伸びていく場合よりも、敷地の構造は保全され、
向かって左の階段で拡張されることが、
現れてきました。拠って、論理的ではないと言われるかもしれないが、
駐車場の脇に階段を造るのではなく、
駐車場からは離して階段を設けることを、私は決定したのでした。
更に、もう一つ。メイン・テラスが狭いことから、
そのテラスの上に建つ外壁が崖のように影を落として居心地悪く聳えることがないように、
注意しました。
其の時、私の頭にこうして敷地の構造があり、
家の構造を保全していく微妙な詳細によって拡張していき、
決して壊してはならないものでした。
拠って、テラスを覆う影となる家のボリューム規模の影響を減らすことに専念して、
私は、バルコニーかポーチが上階にあると見始めました。
こうして、展開していくプロセスからの結果として、
「変化率」と「交互の繰り返し」の
幾何学的性質を備えた一つの強いセンターが展開し始めたのでした。
丘の下の方の小さな部屋は、向かって右側の上の東側の端にありますが、
既に本当に位置づけられていると見え、とても素晴らしい加えられたこの家のセンターで、
階段状に分かれる滝、カスケード状の建物形状を尾が付いたように強めるもので、
再び、変化率を備えながら多様に展開して、この家の主たる強いセンターを、
より強化していったのです。
この段階で、屋内については小さな考えが(私の頭の中に)ありました。
ただ大雑把なものですが、中央に居間、建物の西端に玄関で、
主寝室は2階という考えでした。
キッチンは東側の狭い棟の端と、ぼんやりとした考えでした。
この段階では、敷地のどこに建物配置すると敷地と美しい調和が生まれるかが、
最重要なところとアプファン家に伝えました。
そして、この段階でそれを運よく達成出来ていたのでした。
私達の敷地での作業は、(写真の)ラフな模型でまとめられています。
私が強調したいところは、
普通さと、外見の使い難そうな感じと、この模型の粗さでもあります。
この段階が終わったところで、
この家が美しく配置され、美しい道路を生かし続けているのです。
敷地の全体性に純粋に応えて、そこにある何かがより生きるようにしています。
この家が、道路を助けて、近隣の構造を保全するのに、
家の前面のメイン・テラスの上に形づくられるポジティブ・スペースが、
決定的な成分なのです。
近隣や道路や庭を維持するこのメイン・テラスの確かな在り様が、決定的なのです。
これは全て、センターを創造していく、それが起こるプロセスを妨げずに、
展開するプロセスを許容する模型の粗略さから可能になりました。
寧ろ、そうした模型がそれを助けたのです。
私が強調したい私の強い信念は、この家のボリューム規模を、図面によって、
或いは何枚もの図面によって定義するのは、失敗を招くということです。
敷地の複雑な3次元のリアリティがあり、家のボリューム規模、形や斜面といったものは、
図面からは見えては来ないということです。
敷地の形状や斜面を表した粘土模型の上に、
バルサ材の小さな塊ブロックをいろいろ置いてみて、解ってくることなのです。
図面上でデザインされる家では、或いは敷地で杭を打って確かめることがなければ、
私達が配慮した斜面地の全体性を保全するのに近いレベルに達することは出来ないでしょう。
私が作った小さなラフな模型の中で、多くのエラーを乗り越えて試行錯誤を繰り返し、
見えてくるものなのです。
これが、核のようなセンターを創造する
基本的なプロセスにおける作業の様相なのです。(P.577)
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お疲れ様です。
次回は、続きのスケッチからの展開に進みたいと思います。
どうぞ、お楽しみに〜♪